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コラム

あいそめクリニック

季節の養生法

2021.06.12

梅雨の時期は「水滞(水毒)」にご用心

 久しぶりのコラムとなってしまいました。早いものでもう6月。今年は梅雨入りが早く、じめじめした日が続いていますが、いかがお過ごしでしょうか。クリニックでも、この時期ならではの湿気による不調のご相談が増えていますので、コラムでもとりあげることとしました。


 

湿気と水滞(水毒)

 東洋医学では、人は季節により、風(ふう)、寒(かん)、暑(しょ)、湿(しつ)、燥(そう)、火(か)という6つの気候の変化(六気)を受けると考えられており、この六気が身体の適応力を超えるほど激しく変化して体調の不調を引き起こす場合、それぞれ、風邪、寒邪、暑邪、湿邪、燥邪、火邪(熱邪)と呼ぶのです(六つ合わせて「六淫」ともいいます)。
このうち「湿邪」によって「水」が体のいろいろな部位にとどまったり・偏在することでさまざまな症状を引き起こすことを「水滞(水毒)」といいます。もともと体質的に「水滞(水毒)」の傾向がある方は、湿邪によってさらにその傾向が強まり、症状が悪化することが多いので、とくに注意が必要です。
 

水滞(水毒)による症状

 「水滞(水毒)」による症状にはどのようなものがあるか、みていきましょう。
「水」の巡りが身体全体で滞ると、頭痛や頭重感、めまい、頻尿・膀胱炎、手足の冷え・むくみや重だるさなどがみられます。とくに胃腸などの消化器(東洋医学では「脾」といいます)はもっとも「湿邪」におかされやすく、ここに「水」が滞った場合には、胃もたれや食欲不振、吐き気、下痢などの消化器症状がみられます。消化の力が弱まると、疲れやすくなったり身体がだるくなったりします。胸のあたりで滞っている場合は、水様鼻汁や痰、咳、喘鳴(呼吸をするときに、ヒューヒュー、ゼーゼーなどと音がすること)などがみられやすいです。また、関節に「水」が滞り、関節の痛みやこわばりなどがみられる場合もあります。
 

水滞(水毒)に対する養生法

 このように水滞(水毒)はさまざまな不調をひきおこしやすいので、水滞(水毒)の傾向がある場合は少しでも「水」が滞らないよう、巡りをよくしておきたいものです。そのためにはどうしたらよいでしょうか。

まずは、適度に身体を動かすことが大事です。筋肉(とくに下半身の筋肉)が少ないと、筋肉がポンプのように働いて体内で水分や血流を循環させる力が落ちてしまうため、水滞(水毒)の原因になります。「運動は苦手」「忙しくて運動する暇がない」という方も、毎日の生活で階段を使ったり、一つ手前の駅で下車して歩くなど、できる範囲で身体を動かすよう意識すると良いでしょう。また、夏でもお風呂につかって身体を温めることも効果的です。

水分を一度にたくさんとらず、少量ずつこまめに摂るなどの工夫も有効です。「湿邪」の影響を受けやすい胃腸を守るため、暴飲暴食を避けましょう。

また、蒸し暑い季節ですのでエアコンをかけたり冷たい飲食物を口にしたりもすると思いますが、冷えがあると胃腸の働きが低下して「脾」に「水」が滞ってしまいますので、身体を冷やしすぎないように気を付けましょう。


 

水滞(水毒)に効果のある漢方薬

 漢方薬を飲むことも症状改善の助けになることがありますので、いくつかご紹介します。
水滞(水毒)を改善する作用のことを利水作用といい、利水作用のある生薬を含む漢方薬では、利尿や発汗を促したり、温めて代謝機能を改善したり、胃にたまった水を腸に送りやすくしたりして、体内に停滞している水を取り除きます。
代表的な生薬としては「沢瀉(たくしゃ)」「茯苓(ぶくりょう)」「朮(じゅつ)」「猪苓(ちょれい)」などがあります。このうち「朮」や「茯苓」には胃腸をととのえる作用もあります。
 このほか、「半夏(はんげ)」「陳皮(ちんぴ)」なども胃にたまった「水」を腸へ送る作用があります。

沢瀉(たくしゃ)の花
 

梅雨の時期にはこれらの生薬を含む「五苓散(ごれいさん)」や「猪苓湯(ちょれいとう)」、「半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)」などが、水滞(水毒)に伴う頭痛やむくみ、めまい、排尿トラブルなどによく用いられます。なかでも、「五苓散」は比較的即効性があり、頓用してもそれなりに効果がありますので、普段の処方に加えて処方することがこの時期多いです。
胃腸の症状が目立つときには「半夏白朮天麻湯」のほか「六君子湯(りっくんしとう)」などもよく用いられます。これらは上に挙げた生薬に加えて、気を補う作用のある「人参(にんじん)」も含むので、だるい・疲れやすいなど体力低下がみられるときに役に立ちます。

水滞(水毒)による関節の痛みやこわばりに対しては、上に挙げた朮を含む二朮湯(にじゅつとう)のほか、薏苡仁(よくいにん)や桂枝(けいし)、麻黄(まおう)などを含む「薏苡仁湯(よくいにんとう)」「越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)」などを用います。

冷えによって腸の働きが低下して水滞(水毒)の悪化させている場合には、「乾姜(かんきょう)」や「附子(ぶし)」を含む「真武湯(しんぶとう)」などの処方が有効です。
血の巡りが悪いことが冷えと水滞に影響している場合には、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)など、利水作用のある生薬と血を巡らせる生薬を共に含む処方を考慮します。
 

梅雨だけではなく、日本の夏も湿邪には要注意

 日本の夏は高温多湿ですので、梅雨の後もしばらく、この「湿邪」は続きます。水滞(水毒)対策をして、少しでも快適に過ごしましょう。

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