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漢方のおはなし

あいそめクリニック

漢方とは

漢方は、中国から伝わった伝統医学が日本の風土や気候、日本人の体質やライフスタイルに合うように年月をかけて独自に発展したものです。現在では、西洋医学だけでは解決できない原因不明の症状(たとえば、痛みやしびれ、微熱など)を緩和するなど、西洋医学を補うものとしても役立っています。

漢方では、症状のある部位や病気そのものだけではなく、その人全体をひとつと考えて診ます。これは、こころとからだは一体であり、お互いに強く影響し合うという「心身一如(しんしんいちにょ)」という考え方にもとづいており、現代における「全人的医療」(患者さんをこころとからだの両面から総合的にとらえ治療すること)にも通じるところがあります。また、西洋医学は、検査データをもとに診断・治療しますが、漢方では、病気ではなく、その人の体質や体力、病気やストレスへの抵抗力、症状の出方などの個人差(「証」といいます)をより重視して治療を行うといった特徴があります。

漢方の診察では、五感を使った四診(ししん)(望診〈ぼうしん〉・問診〈もんしん〉・聞診〈ぶんしん〉・切診〈せつしん〉)という診察方法を用い、「虚・実」「寒・熱」「表・裏」や「気・血・水」、「六病位」といった分類により、その人のどこがどのように不調なのかを明らかにします。たとえば、「虚・実」はその人のもっている体力あるいは体格、または疾病に対する反応の強さを表し、弱いほど「虚証」、強いほど「実証」とされます。こうした診察を通して、その人の体質や体力、抵抗力、症状の部位や個人差などをあらわす「証」を決め、それぞれの「証」に合った漢方薬を処方します。なお、漢方薬は「証」に合う処方をしていれば、比較的安全ですが、まれに予期しない副作用がみられることがあります。たとえば黄芩という生薬でまれに肝臓の障害が起こったり、甘草という生薬では高血圧やむくみを生じることがあります。当院でも、そのような副作用が生じていないか確認するため必要に応じて血液検査を行いますが、漢方をのみはじめてから、何か気になる変化があったときは必ずご相談下さい。

生薬

漢方薬は、「生薬」と呼ばれる植物、鉱物などを、通常は複数組み合わせて作られています。

たとえば、「桂枝湯(けいしとう)」という漢方薬は、生薬の桂枝(けいし)、芍薬(しゃくやく)、大棗(たいそう)、甘草(かんぞう)、生姜(しょうきょう)を組み合わせたものです。この処方は、3世紀ごろ中国の漢の時代に書かれた「傷寒論」という医学書に初めて出てくる処方であり、現在でも同じ生薬の組み合わせで用いられています。このような生薬の組み合わせは、何千年という長い年月にわたって、どの組み合わせでどんな効果が得られるか、また副作用がないかなどが確かめられた結果、効果がありかつ安全性が高いとされる組み合わせをもとに体系化され、漢方処方として現在に伝えられています。

基本的な処方に他の生薬を加えたり、どれか減らしたりすることで、他の処方として応用されていることもあります。たとえば、「桂枝湯」に、麻黄(まおう)と葛根(かっこん)を足すと、とても有名な「葛根湯」という処方になります。このように複数の生薬を組み合わせることにより、様々な効果が期待でき、色々な病状にも対応できるのが漢方薬の良いところです。

また、漢方薬は、独特の味や香りで飲みにくい、煎じる手間がかかる、長く飲まないと効かない、昔の治療法で古いとも思われがちですが、持ち運びも便利で煎じる手間もいらないエキス剤や丸薬は比較的飲みやすく、手軽に始めて頂けますし、また、種類によっては比較的早く効果があらわれるものもあります。たとえば、芍薬甘草湯という処方は筋肉のけいれんやこむら返りなどに比較的即効性がありますし、風邪のひきはじめに悪寒がするときなどに葛根湯を服用するとすぐに温まり、発汗するなど、すぐに効果があらわれます。

  • 桂皮 けいか

    クスノキ科トンキンニッケイ(Cinnamomum cassia Blume)の樹皮を乾燥したものを用います。
    あいそめクリニックのシンボルマークは、この植物の花をモチーフにしています。発汗を促したり、上にのぼり過ぎた気を下げたり、温めて経脈の流れをよくしたりなどの薬効があり、多くの漢方処方に含まれます。

  • 大棗 たいそう

    クロウメモドキ科のナツメ(Zizyphus jujuba MILLER var. inermis REHDER)の果実を乾燥したものを用います。
    気虚を補う効果があり、健胃作用や抗ストレス作用、抗アレルギー作用もあります。中国では、大棗の果実は食用にされ、乾燥した果実を使ったお菓子や甘味料も多いようです。

  • 黄連 おうれん

    キンポウゲ科のセリバオウレン(Coptis japonica Makino var. dissecta)などの細い根を除いた根茎を乾燥させたもの用います。
    熱を冷ましたり、炎症を沈めたり、湿を除いたりするほか、健胃作用、抗菌作用など、さまざまな薬効があります。その名のとおり、セリバオウレンの葉はセリに似ており、花は小さくてとても可憐です。

  • 麻黄 まおう

    マオウ科のシナマオウ(Ephedra sinica Stapf)などの茎を乾燥させたものを用います。
    発汗を促したり、咳や喘鳴を鎮めたり、湿を除いて筋肉、関節の痛みをとったり、さまざまな薬効があります。マオウには、エフェドリンという成分が含まれています。エフェドリンはドーピング検査の規制物質に指定されているので、スポーツ大会に出るときなどは、葛根湯をはじめとするマオウを含む風邪薬などにも注意が必要です。

  • 五味子 ごみし

    マツブサ科のチョウセンゴミシ(Schisandra chinensis BAILLON)の果実を乾燥させたものを用います。
    咳を鎮めたり、渇きを潤したり、下痢を止めたりするなどの薬効があります。
    五味子とは、酸味、鹹味(塩辛い)、苦味、辛味、甘味の五つの味がするということで名づけられました。

漢方に適している症状

西洋薬はたいてい一つの有効成分からなり、それぞれに血圧を下げたり、熱や痛みをとったりするなど、一つの症状や病気に対して効果が期待できます。一方で、漢方薬は複数の生薬を組み合わせているため、多様な症状に効果が期待できるのが特徴です。とくに、その人の体質や訴えをもとに処方するため、体質に由来する症状(冷え症、虚弱体質など)や検査では表れない不調(自律神経の乱れ、更年期症状など)の治療には効果が期待できます。

  • ・婦人科疾患(月経不順、月経痛、冷えのぼせ、ホットフラッシュなど)
  • ・整形外科疾患(肩こり、腰痛、しびれ、関節の痛みなど)
  • ・皮膚疾患(アトピー性皮膚炎、手荒れ、にきびなど)
  • ・耳鼻科疾患(アレルギー性鼻炎、副鼻腔炎、めまい、耳鳴、喉のつまり感など)
  • ・慢性的な内科疾患(胃もたれ、食欲不振、病後の体力低下、便秘、など)
  • ・その他(頻尿、夏バテ、冷え症、虚弱体質、疲れやすい、寝つきが悪い、だるいなど「未病」対策)